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SFの面白さの正体と、ケン・リュウの『もののあはれ』について

ケン・リュウの『もののあはれ』というSF短編集が、めちゃくちゃ面白かったです。

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

 

ケン・リュウ氏は、名前から一見すると日本人のようですが、中国生まれのアメリカ人SF作家です。しかし『もののあはれ』というタイトルは邦題かと思いきや、原題そのままなのだそうです。カッコいい!

小説に行き着いた経緯としては、Netflixのオリジナルアニメ『Love, Death & Robots』(こちらも短編アニメ集)で、『もののあはれ』に収録された短編を原作とするエピソードがあったからです。

ケン・リュウのSF小説の魅力は、物語のバックグラウンドに、東洋の文化や歴史のエッセンスが入っているところだと思います。短編に収録されたテーマは、どれもモチーフとしては普遍的です。例えば、不老不死や、惑星移住、肉体と精神の分離など。しかし、そこに上述したようなエッセンスが加わって、独特な世界観が醸成されているのでしょう。

そんなわけで、ケン・リュウ氏その人に興味を持ってネットサーフィンしていたら、次のWIREDのインタビュー記事を見つけました。

この記事の中で、同氏がSFの面白さについて語った一文があって、ものすごく印象的でした。

SFやファンタジーでは、実在しないものをメタファーとして描くことができる。つまり実世界では抽象的、あるいは観念的にしか語れないようなものを、リアルな、手に取れるものとしてストーリーに登場させることで、ぼくらはいつもとは異なる方法でそれを解釈することができるんだ。

この一文には感動しました。わたしがなぜSFが好きなのか、代わりに言語化してもらえたようで嬉しくなりました。SFといえば、未来のテクノロジーや「そうなったかもしれない未来」について描かれることが多いですよね。

今までは、そんな「ありそうでない世界」にワクワクしていたと思っていたのですが、SFはその媒介になってくれていたのだと気付きました。だから、SFに触れると知的好奇心を刺激されるし、心を豊かにしてくれるのだなと。素晴らしい本に出会えて良かったです。