先日『バーチャルリアリティ学』という本を読んだのですが、とても面白かったです。
この本は、一般の技術書とは異なり、日本バーチャルリアリティ学会によって編纂されています。

- 作者: 舘暲,佐藤誠,廣瀬通孝,日本バーチャルリアリティ学会
- 出版社/メーカー: コロナ社
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 5回
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VRを学問として学びたい、というニーズに応えるために生まれた、いわばVRの教科書的な一冊なのです。
わたし自身、VRといえば、もともとゲームの印象しか持っていませんでした。
しかし、この本で体系的に学んだことで、VRへの見方が、以前とはだいぶ違ったものになりました。
今回は、そんな『バーチャルリアリティ学』を読んで印象に残ったポイントについて、いくつかご紹介したいと思います。
まだ読んでいない方や、買おうか迷っている方への参考になれば幸いです。
VRは仮想現実ではなく人工現実
テレビやネットで、VRのことを、よく「仮想現実」と呼んでいるのを耳にしませんか?
実際に、わたしもVRのことは「仮想現実」だと思っていました。
というのも、これまでVRと言われて思い浮かんだのは、「ソードアート・オンライン(SAO)」というアニメのことでした。
ソードアート・オンラインでは、主人公がVR世界の中で閉じ込められ、その中で死闘を繰り広げるというストーリーが描かれています。
つまり、「現実では体験できないようなことを体験する」という意味で、仮想現実という言葉にしっくり来ていたのです。
しかし、本来の意味としては、「仮想現実」という言葉は間違っているのだそうです。
仮想現実というと、本来の現実(real)とは対極に位置付けられるイメージですが、そうではありません。
決して現実そのものではありませんが、現実を構成する要素を抽出することで、人工現実を作り出しているのです。
つまり、VRは夢や幻のようなものではなく、現実のエッセンスを抽出したものと言えるのです。
「バーチャルリアリティ学」っていうVRの教科書的な本を読んでいるけど、とても面白い。特に、VRは仮想現実みたいな現実の反対みたいなニュアンスで表現されることが多いけど、本来の意味的には現実を抽出したもの、みたいな説明を読んで、そこはパラダイムシフト感あった。
— tamu (@tamusan100) 2018年7月25日
ヘッドセットはVRの手段の1つ
このように、VRの定義をあらためて確認してみると、ヘッドセットすら手段の1つでしかないことが分かります。
わたしも、これまではVRと言えば「頭に何かつけて遊ぶもの」と思っていました。
しかし、VRが「現実のエッセンスを抽出したもの」であるのなら、別にヘッドセットでなくとも構わないわけです。
それでは、「現実のエッセンス」とはいったい何なのでしょうか?
例えば、「景色」や「匂い」「触った感じ」など、人間が五感を通して得られるものは、すべて「現実のエッセンス」と言えるでしょう。
その中でも、人間は「視覚」や「聴覚」を頼りにしているところが大きいので、結果的には「ヘッドセット」が現在では選ばれているわけです。
VRが実現する未来の可能性について
VRの定義と、必ずしも現在のヘッドセットと結びつかないことが分かったところで、VRの未来に目を向けるとワクワクしてきます。
例えば、ネットワークを介してプレイヤーを遠隔地に運び、あたかも本当にその場にいるように行動する技術のことを「テレイグジスタンス」と呼ぶそうです。
そうなると、究極的には「移動」という概念すら無くなりそうですよね。
現地で美味しいものを食べたり、観光名所をじっくりと楽しむことはできないかもしれませんが、ビジネス上の打ち合わせや往訪などはVR上で完結しそうです。
また、ものづくりや都市計画においても、まずはVR上でプロトタイピングを行ってから実際の製品に展開できるようになります。
リソースの節約になるだけではなく、取り返しのつかない失敗を防ぐ意味でも役立ちそうです。
VRを現在のようなゲーム用と捉えずに、知的創造のためのツールと捉え直すと、夢が広がりますね。
このあたりのことは、『ミライのつくり方 2020-2045 僕がVRに賭けるわけ』という本を読んでみると、なかなか面白いですよ。

ミライのつくり方2020―2045 僕がVRに賭けるわけ (星海社新書)
- 作者: GOROman(近藤義仁),西田宗千佳
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/04/27
- メディア: 新書
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VR時代のUIデザインのポイント
わたしとしては、普段は会社でWebサービスのUIデザインを仕事にしているため、VR時代にUIデザインはどうなるのかと考えてしまいます。
その点についても、『バーチャルリアリティ学』の中で、気になる記述を見つけることができました。
それは、人とシステムとの関係性についての変化の話です。
例えば、VRをヒューマンインタフェースの観点から見たときに、現在では人とシステムは「対面的」と言うことができますよね。
例えば、現在のIT業界で「UIデザイン」と言えば、スマートフォンアプリやWebサービスの画面設計がよく想起されると思います。
PCやスマートフォンなどは「対面的」の分かりやすい例で、人がシステムと対面して、相互に作用(インタラクション)しています。
しかし、VR世界になると、人とシステムは「包含的」な関係性に変化するのです。
つまり、システムの中に人が入って、その中からシステムを操作することになります。
この感覚は、実際にVRを体験してみるとよく分かります。
つい先日、Oculus Goを使ってみた感想をブログに書いたのですが、まさしくOculus Goの中に入って、その世界の中で操作しているような感覚でした。
この「人とシステムの関係性」の変化は、未来のUIデザインのポイントとして押さえておかなければならないでしょう。
人とシステムの関係性がデザインに与える影響は、従来のPCからスマートフォンへの移行のときにも大きかったと思います。
これまでは、人がアプリケーションを操作するときは、PCの前にゆっくり腰を下ろして行うものでした。
しかし、スマートフォンの登場により、人がアプリケーションをより手軽に普段の生活のコンテキストの中で利用するようになりました。
結果として、そのコンテキストに着目して、どのようにユーザー体験を設計するのかが重要視されるようになったのです。
同じようなことが、それも上記よりもさらに大きな変化が、これから起こるというわけです。
あとはUI的な味方をしたときに、現在のシステムと人との関係性は対面的(スマホとか)だけど、VRは包含的っていう説明を読んだときはビビットきた。今後のUIデザインのキーワードになりそう。
— tamu (@tamusan100) 2018年7月25日
私たちは既にVR時代を生きている
VRというと、現代ではゲームのイメージで、いわゆるSF映画のようなVR体験はまだまだ先のことのように感じてしまうかもしれません。
しかし、この本の中で面白かったのが、私たちは既にVR時代を生きているというものでした。
というのも、前述のとおり、VRとはあくまでも「現実のエッセンスを抽出したもの」なのです。
そこで、ふと周りを見渡してみると、既に多くのVR(バーチャルリアリティ)が存在していることが分かります。
例えば、お金。紙幣そのものはただの紙切れであるにも関わらず、わたしたちは紙幣を価値があるものと認識して生活しています。
例えば、電話。電話から聞こえてくる音は、実際に話している人のそのままの声ではなく、パターンの中から選ばれた音を当てているだけです。これも、わたしたちは本物の相手の声と認識して生活しています。
このように、私たちは既にVR時代と生きているのです。
ひょっとして、これもVR?
そう考えながら周りを観察してみるのも、面白いかもしれませんね。

- 作者: 舘暲,佐藤誠,廣瀬通孝,日本バーチャルリアリティ学会
- 出版社/メーカー: コロナ社
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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