デザイナーは、批評にさらされることが多い職業です。
アウトプットが視覚的に分かりやすいので、悪い言い方をすれば、誰にでも批評することができてしまいます。
ひょっとすると、この記事を読まれている方の中にも、次のような経験をしたという方がいらっしゃるかもしれません。
- クライアントや上司の、個人的な好みでデザインを否定される
- デザインレビューで話題が発散し、いつまで経っても意思決定できない
- デザインの背景が理解されず、ただ「こうしろ」という指示を受ける
こうした経験は、非常に挫折感の強いもので、時には打ちひしがれることもあるかもしれません。
しかし、先日読んだ「みんなで始めるデザイン批評」の中には、このような状況を打破するためのヒントが書かれていました。
そこで今回は、上記の本の概要と、わたしの気になったポイントについてご紹介したいと思います。
なぜデザインレビューを行うのか
そもそも、わたしたちはなぜ、デザインレビューを行うのでしょうか。
その理由は「素早い改善につなげるべく、意思決定を行うため」と言えるでしょう。
特にIT業界の場合、Webサービスやスマートフォンアプリは、生き物のようなものです。
サービスを取り巻く状況は目まぐるしく変化し、わたしたち開発者は常にその動きを観察しながら、素早くサービスを改善していかなければなりません。
そのため、デザイナーは自身のアウトプットに対して「ターゲットにとって効果的かどうか」の批評を、他のエンジニアやプロダクトオーナーに求めるのです。
フィードバックには3つの種類がある
前述のように、デザインレビューの目的は「ターゲットにとって効果的かどうか」をステークホルダーと共に検証するためのものです。
しかし、実はデザインレビューの参加者は、必ずしも上記のような観点でフィードバックを行うわけではありません。
ここに、批評を受けるデザイナーと、批評する側との間にギャップが生まれているのです。
この本の中では、デザインに対するフィードバックには3つの種類があることが述べられています。
反応型
反応型のフィードバックは、その名の通り、批評ではなく「反応」している状態です。
このフィードバックには、多くの場合「ターゲットにとって効果的かどうか」という観点は含まれていません。
その代わり「(ユーザーではなく)自分がどう思ったか」に焦点が当てられています。
例えば「自分はこういう色のほうが好きだな」といったフィードバックは、反応型に当たります。
指示型
指示型のフィードバックは、デザインの背景に関係なく、指示を行うことでデザインを改善しようとします。
指示型のフィードバックを受けた後に残るのは、ほとんどの場合、修正すべき項目のチェックリストになります。
しかし、必ずしもデザインの背景まで理解して発言していないため、デザインがより良いものになるとは限りません。
批評型
批評型のフィードバックは、ターゲットを含めたデザインの背景を確認した上で、より効果的にするための提案を行うものです。
反応型や指示型のフィードバックとは異なり「ターゲットにとって効果的かどうか」を主眼に、デザインの意図を理解した上での発言となるため、デザインをブラッシュアップするために役立ちます。
ファシリテーションの方法を学ぼう
このように、普段デザイナーが受けているフィードバックには、3つの種類があるのです。
あなたのこれまでの経験の中でも、「反応型」「指示型」のフィードバックを受け取った機会は多かったのではないでしょうか。
「反応型」「指示型」のフィードバックは、デザインのアウトプットを改善するためには、あまり役に立つことはありません。
そこで、「反応型」「指示型」のフィードバックを、積極的に「批評型」のフィードバックに変えていくためのファシリテーションの方法も学ぶ必要があります。
デザイナーは「デザインの伝え方」に関して、学んでいるようにあまり学んでいません。
確かに、プレゼンテーションの方法や、綺麗なスライド作りのスキルはあるかもしれません。
しかし、前述のような有益でないフィードバックへの対処方法は、なかなか学ぶことはできないでしょう。
この本の中では、あらかじめ共通理解を作るために準備することや、デザインレビューの進め方についても解説されています。
おわりに

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この本の中では、ファシリテーションの技法など、手法自体に新しいものはありません。
しかし、デザイン批評という切り口で、共通理解を作る方法が解説されている本書は、とても貴重な存在と言えるのではないでしょうか。
制作会社でも事業会社でも、デザインに対するフィードバックをより良い形で活かしたいと考えているデザイナーであれば、読んでおいても損はないかもしれません。