わたしには、ずっと好きなデザイナーがおらず、そのことに少し負い目を感じていました。
「好きなデザイナーは誰ですか?」という質問は、デザイナー同士や、あるいは就職活動の面接でよく聞かれると思います。
わたしの中では、その質問に答えられる人は、デザインについて好みや考え方をしっかりと確立できている人。
反対に、答えられない人(自分)は、勉強不足なのではないかと思っていました。
しかし、まったくそんなことはなく、単純な「問いの仕方」の問題だと気がつきました。
「好きなデザイナー」という聞き方だと、暗黙的に「特定の1人」という意味合いが強くなると思います。
そうなったときに、自分が持っている答えと、その質問とがうまく噛み合わなくなるのです。
例えば、わたしはRPGやSF映画が好きで、デザインの好みにも大きな影響を受けてきました。
ですが、上記の場合、そこから「好きなデザイナー」を答えることは難しくなります。
なぜなら、それらは多くの人が関わることでデザインされたものであり、特定の個人を抜き出すことができないからです。
ここで、わたしの好きなRPGのひとつである、FFについて取り上げてみます。
FFのどこが好きなのかというと、キャラクターの個性があり、ストーリーがあり、美しいマップがあり、音楽があります。
これらは切り離すことはできず、あくまでも、全てが調和したものを体験して好きになったのです。
もし、特定のキャラクターデザインが好きであったり、武器のモデリングが好きなのであれば、話は簡単かもしれません。
そこまで絞り込めれば、好きなデザイナーとして、特定の個人を挙げることもできるでしょう。
そうではなく、あくまでも総体として好きということであれば、やはり冒頭の質問には答えづらくなってしまいます。
FFが好きだからといって、「好きなデザイナーはスクウェア・エニックスです」というのも、しっくり来ません。
「スクウェア・エニックスの、FF7の開発チームです」という言い方も、少し変ですよね。
同じようなことが、映画においても、当てはまります。
映画のデザインが好きという場合、特定の要素ではなく全体として好きなのであれば、どう答えれば良いのでしょうか。
監督の名前を答えるというのも、違和感が大きいですよね。
たしかに、監督もある意味ではデザイナーと言えそうですが、話がややこしくなってしまいそうです。
このように、自分が好きなデザインの分野によっては、好きなデザイナーを答えるのが難しくなってしまうのです。
とはいえ、そもそも「好きなデザイナーは誰ですか?」という質問に、どのような意図があるのかを見極めることが大切でしょう。
「好きなデザイナー」というのは言葉のあやで、要するに「好きなデザインや、デザインについて、自分なりの考えを持っているか」を知りたいのかもしれません。
そうなのであれば、特定の個人を答えることができなくとも、自分が心を動かされたデザインについて語ればいいのです。
好きなデザイナーがいないからといって、負い目に感じる必要はありません。