つい先日『議論のレッスン』という本を読み終わりました。
タイトルのとおり議論の基礎を教えてくれる本だったのですが、「もっと早くに読んでおけば良かった!」と本当に後悔しました。
議論というと一見難しそうですが、わたしたちは職場でも家庭でも、少なからず議論を行っています。
たとえば職場の場合、正しい議論の知識や型となる考え方(フレームワーク)を持っておくことで、仕事を有利に進めることにも役立つのです。
今回は、そんな『議論のレッスン』の概要と、デザイナーにも役立つケーススタディを考えてみました。
よろしければ、ぜひ参考にしてください。
議論における3つの主役
それでは手始めに、議論における3つの主役を確認しておきましょう。
主張
主張とは、あなたが言いたいことです。
当たり前のことですが、主張がなければ議論は成り立ちません。
主張がないまま議論を進めてしまうと、何の話をしているのかゴールが曖昧なまま進んでしまうことになります。
根拠
根拠とは、主張を成り立たせる理由となるものです。
基本的に主張とセットになるもので、根拠のない主張は説得力がなくなってしまうので、議論の上では非常に重要な要素となります。
論拠
論拠とは、主張と根拠をつなぐ役目を負う要素です。
日常会話の中では論拠は表に出てこないため、論拠の有効性はコンテキストに依存することになります。
ケーススタディ
それでは、議論における3つの主役について確認したところで、ケーススタディを元に考えてみましょう。
主張と根拠は分かりやすいですが、論拠については実際の会話を思い浮かべながら考えた方が理解が進むと思います。
緑色のボタンを使ってください
あなたは、Web制作会社で働くWebデザイナーです。
ある日、とあるLP(ランディングページ)のデザインを進めていたところ、マーケティング担当者から次のような一言がありました。
「この申し込みボタンの色は、緑色にしてください。緑色のボタンの方がCVRが高いと言われていますので。」
これに対して、Webデザイナーのあなたは頭を悩ませることになります。
なぜなら制作中のLPは、ちょうど「自然」をテーマにしており、緑を基調色とした構成になっていたからです。
緑を基調色としたLPの中で、目立たせたい要素である申し込みボタンまで緑色にしてしまうのは逆効果ではないか…
さて、あなたはどうやってマーケティング担当者と議論しますか?
よくある失敗
ここでやってしまいがちな失敗は、「相手の理解度を考えずに主張と根拠を提示してしまうこと」です。
例えば、次のように答えたとしましょう。
「いえ、ボタンの色はこのままオレンジの方が絶対に良いです。サイトの基調色が緑ですから、ボタンまで緑にしてはかえって目立たなくなってしまいます!」
すると、マーケティング担当者はイライラしながら次のように答えるのです。
「ですから!緑色にした方がCVRが上がるんですよ。ボタンは緑じゃない方がいいというのは、あなたの主観ですよね?緑色にすればCVRが上がるというデータがあるんですから、その通りにしてください。」
こうした状態が、いわゆる水掛け論になります。
こうしたやりとりは、デザイナーであれば経験のある方も多いかもしれません。
論拠を明らかにしよう
上記のやりとりでは、なぜ水掛け論の状態になってしまったのでしょうか。
それは「サイトの基調色と申し込みボタンの色が同じだと、なぜマズいのか」という、主張と根拠を結ぶ「論拠」が明らかではなかったからです。
もう一度、先ほどのやりとりを振り返ってみましょう。
申し込みボタンを緑色にすべきというマーケティング担当者の一言に対して、Webデザイナーのあなたは次のように答えたことを思い出してください。
「いえ、ボタンの色はこのままオレンジの方が絶対に良いです。サイトの基調色が緑ですから、ボタンまで緑にしてはかえって目立たなくなってしまいます!」
この発言を分解すると、次のようになります。
- 主張:申し込みボタンの色はこのままの方が良い。
- 根拠:サイトの基調色と申し込みボタンの色が一緒では、目立たなくなる。
一見すると、主張と根拠が両方示されており、正しい返答のように思えます。
しかし、この返答には、正確には下記の論拠が隠されています。
「デザインにおいて、特に目立たせたい要素には、基調色の反対色を用いてコントラストを持たせることが有効である。」
論拠はコンテキストに依存する
先にも述べたとおり、論拠は通常、表には出てこないものです。
先ほどのやりとりにおいても、「デザインにおいて、特に目立たせたい要素には、基調色の反対色を用いてコントラストを持たせることが有効である。」という論拠は、発言の中に出てきませんでした。
あなたは、マーケティング担当者に対してこう思ったかもしれません。
「この人は、デザインの素人だから分かっていない!」と。
ですが、論拠はコンテキストに依存するものです。
普段、デザイナー同士であれば暗黙知として伝わることも、職種の違う人と話すときには伝わらなくなります。
実は、議論している中で「何か話が噛み合わないな…」というときは、主張や根拠でなく、この隠れた「論拠」が伝わっていないのが理由であることが多いのです。
よって議論の際には、こちらが相手に伝わらない論拠を用いていないか。
または、相手がどのような論拠を元に主張・根拠を展開しているのか。
という風に、相手の発言を構造的に捉えることが、議論を有意義にする第一歩になるのです。
おわりに
今回は議論における3つの主役「主張」「根拠」「論拠」のみを取り上げてお話しました。
しかし、議論においては、さらに「裏付け」「限定語」「反証」といった脇役となる要素も存在しています。
こうした議論の知識は、デザイナーでも一生役に立つスキルになります。
気になる方は、ぜひ『議論のレッスン』をチェックしてみてください。