知り合いのエンジニアの方に勧められて、『ジョブ理論』という本を読みました。
お堅いビジネス書かと思っていたら、UXデザインに通ずるものを感じて驚きましたし、非常に面白い一冊でした。
著者の「クレイトン・M・クリステンセン」といえば、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、『イノベーションのジレンマ』でも有名です。
実は『イノベーションのジレンマ』は、1年ほど前にオーディオブックで購入して聞いてみたことがあるのですが、内容が難しくて途中で挫折してしまいました。
普段触れない分野の勉強をしようとすると、概念や専門用語を知らない分すぐに挫折してしまいます。
しかし、今回の『ジョブ理論』は、読んでいて「UXデザインの考え方と同じだ!」と思う瞬間が何度もありました。
『イノベーションのジレンマ』のときとは全く違って、すらすら読み進めることができたのです。
そこで今回は、『ジョブ理論』の概要と、デザイナーとしての観点から気になった箇所についてご紹介したいと思います。
ジョブ理論とは?
ジョブ理論とは、「どんなジョブ(用事・仕事)を解決するために、顧客はそのプロダクトを雇用するのか?」という考え方から成り立っています。
これって、UXデザインの考え方と似通っていると思うのですが、いかがでしょうか?
従来のマーケティングでは、顧客を「年齢・性別・職業」といったセグメントに分け、それぞれの属性毎に適切なアプローチを行うというものでした。
しかし、ジョブ理論では、そうした顧客の属性は一切考えません。
ジョブ理論において着目するのは、顧客が「なぜ」そのプロダクトを雇用したのかということです。
どうして、このような考え方が必要になるのでしょうか?
ミルクシェイクをもっと売るためには?
ジョブ理論の考え方を理解するには、第1部で紹介されているミルクシェイクの例が分かりやすいでしょう。
その事例では、「どうすればミルクシェイクをもっと売れるだろうか」という命題に対して、ジョブ理論の考え方が用いられていました。
当初ミルクシェイクの販売店は、顧客に「どんな点を改善すれば、もっとミルクシェイクを飲みたくなりますか?」とヒアリングを行っていました。
そこでは値段や味、量など様々なフィードバックを得られましたが、それらを実際のミルクシェイクに適用しても、売り上げはほとんど変わらなかったのだそうです。
そこで、著者をはじめとする調査チームは、発想を切り替えました。「どんなジョブを解決するために、顧客はミルクシェイクを買いに来るのだろうか?」と。
顧客が本当に解決したかったこと
すると、面白いことが分かりました。
ただのミルクシェイクでも、「どんなジョブを解決するために?」という視点で見れば、その購買理由はとても示唆に富むものだったからです。
例えば、車での通勤時間中に気を紛らわせるため。(ドーナッツやスナック菓子では手が汚れてしまうが、ミルクシェイクなら手を汚さず片手で飲めて、しかもお腹にたまる)
あるいは、子どもと一緒に出かけて「これが欲しい、あれが欲しい」という要求にノート言い続けた父親が、最後にイエスと言うため。(ミルクシェイクなら手軽で、スナック菓子を食べさせるよりもずっと良い)
こうした視点で見ると、単純に味のバリエーションを増やしたり、価格を安くするだけではダメだということがよく分かります。
ジョブ理論を元に考えることで、ミルクシェイクをどうしていくべきか、活路が開かれるのです。
セグメンテーションの罠
ジョブ理論が優れているのは、何よりも「ユーザー体験」に焦点を当てることで、その商品の本質的な価値を見出せることではないでしょうか。
従来のマーケティングにあるような、顧客を特定のセグメントに振り分けてアプローチするというやり方には、「ユーザー体験」の見方の質を落とす原因が隠れているように思います。
年齢や性別といった顧客の属性は、定量的に測ることができるため、一見すると事実ベースで詳細な分析がしやすいようです。
しかし、本当は全く違う個性を持った人物たちを、無理やり特定の鋳型に当て込んで考えても真実は見えてきません。
顧客がプロダクトを雇用するとき、そこにはただ1つのオリジナルのストーリーがあり、そのストーリーを注意深く観察することが重要なのではないでしょうか。
おわりに
ジョブ理論を読んでいると、「あ、これはUXデザインの考え方と共通しているな」と思うことが何度もありました。
ジョブ理論では、ユーザー体験を考えて、ひたすら「なぜ」そのプロダクトを雇用するのかという本質的に問いに着目します。
UXデザインにおいても、顧客が言ったことをそのまま改善案として活かすのではなく、本当に顧客が求めているのは何か?というインサイトを見抜く視点が重要視されています。
UXデザインはまだまだ一部の企業にしか浸透しておらず、その文化を浸透させることは困難な場合があるかもしれません。
しかし、まずは『ジョブ理論』を勧めて読んでもらうことで、ユーザー中心の考え方を会社に取り入れるきっかけにできるのではないでしょうか。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶブックランキング第3位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
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