Webサービスの開発において「操作は極力簡単でなければならない」と言われることは多いですよね。
とにかく、まずは会員になってもらえるよう、最低限の操作で済むようにUXを設計しようという事です。
これは一見するとユーザーに優しい仕様で好ましいように思えますが、別の視点から見ると必ずしも間違った施策とは言えない場合もあります。
サービスデザインの観点からUXを考える
例えば、サービスデザインの観点から考えると、必ずしも「操作が簡単であること=善」とは限らないことがあるのです。
これは、大変興味深い話だと思います。
その直接的な理由を説明する前に、ここで私たちの誰もが持っているとある特性について確認しておきましょう。
それは、人間は「苦労して手に入れたものほど、より価値を感じる」という傾向があることです。
苦労して入ったコミュニティを人は高く評価する
心理的メカニズムを解説した名著「影響力の武器」によれば、世界中の様々なコミュニティで見られる「新人いじめ」の中で、この「苦労して手に入れたものほど、より価値を感じる」という特性が活かされているという解説があります。
例えば名門大学のエリートクラブでは、新入生がクラブに入会するために、上級生から与えられる無茶な試練をこなさなければなりません。
原始的な民族においても、成人になるための儀式で、獰猛な動物と戦うなどの試練が課される例がよく見受けられます。
単純に考えれば意味の無いことのように思えるかもしれませんが、このような特定のコミュニティに参加しようとする新人に対して「肉体的・精神的な苦痛」を伴う通過儀礼を設けることで、新人はそのコミュニティに対する評価を通常よりも高く評価し、従うようになるという傾向があるのだそうです。
(ブラック企業の絶叫させるような新人研修も、これと同じ手法を利用していると言えますね)
初期のmixiはなぜ紹介登録制を採用していたか
さて、改めて話を戻しましょう。
前述した「苦労して手に入れたものほど、より価値を感じる」という人間の特性を考慮すると、Webサービスにおいても、改めて「簡単であること=善」であるとは限らないということが分かるのではないでしょうか。
例えば初期のmixiやFacebookは、友達からの紹介を受けなければ登録できないという仕組みを持っていました。
これは、UXデザインにおいてよく言われる「操作は極力簡単でなければならない」という原則に反しています。
しかし、初期のmixiやFacebookを体験した私たちはどう感じたでしょうか?
実際は、「友達からの紹介を得なければ登録できない」というハードルを乗り越えることによって、そのコミュニティにより魅力を感じ、愛用するようになったのではないでしょうか。
UX設計はサービスのビジネスモデルに従う
このように、サービスデザインの観点から考えると、UIのセオリーが必ずしも正しく作用しない場合があるということがお分かりいただけたかと思います。
事例として挙げたFacebookやmixiは、どちらも「参加しなければ体験できないコミュニティ」という特徴を持っていました。
こうしたコミュニティサービスの場合、今回の「苦労して手に入れたものほど、より価値を感じる」という人間の特性を考慮したUXデザインを行うことが有効になるかもしれません。
一方、ちょっとした便利アプリやゲームアプリ等においては、インタラクションコストを高く設計すると、ユーザーは途中で使うことをやめてしまう可能性が高くなります。
私たちデザイナーは、絶対的に正しいUI設計、UX設計は無いのだと理解した上で、デザインだけに留まらずサービス全体から考えてデザインしていかなければならないのです。